携帯電話の未来:mobidec2006

この度、入社前研修の一環として「MCF モバイル コンファレンス 2006(mobidec2006)」に参加させてもらうことができた。ブログではこのコンファレンスで個人的に感じたこと、注目したことについて、いくつかの切り口から複数に分けレポートしていきたい。

携帯3キャリアの今後の方向性

午前のセッションでは携帯電話の3キャリア(au,Docomo.softbank)がそれぞれプレゼンを行った。主な内容をピックアップすると以下のようになる。

au
  • 単月でみた契約者の純増数は2005年7月以来連続で首位をキープ。MNP導入後はその傾向が顕著。
  • ARPUは主にコンテンツ関連が押し上げている。
  • 着うたやLISMOなどの音楽配信が好調。au=音楽というブランドイメージを消費者に定着させることに成功。(KDDIの調査によると「音楽で最初にイメージする携帯会社はどこ?」という質問に対し75%がauと答えた)
  • デジタルラジオ放送を利用した音楽配信の仕組みを模索。
  • 電子書籍の市場の伸びが他のコンテンツに比べ激しい。直近の半年でも倍増。
  • ユーザーのコンテンツ利用行動がポータル接触から検索へ。
  • Google検索の導入で、情報へのリーチが加速。
Softbank
  • ポータル戦力してはYahoo!ケータイをハブにPCインターネットとの融合促進、クリックのみでも情報を見つけやすいサイトに。
  • コンテンツ戦略としては電子コミック、Bluetooth、メールを通じてコンテンツを流通させる「超流通」を柱に。
  • 特に電子コミックは他社よりもタイトルを充実させる方向。
  • ゲームはAQUOSケータイなどで利用可能な「横画面対応」のゲームも開発。
Docomo
  • 3G携帯の以降は順調、2006年11月にはmovaFOMAを逆転。今後はHSDPA対応機種を増やし更なる高速化へ。
  • 音楽、動画は通信高速化を生かした高音質・大容量配信で差をつける。深夜の自動ダウンロードを行う方式でハイクオリティなチャンネルを提供。
  • ユーザーの携帯コンテンツの関心は音楽とゲームが中心。
  • 大容量ゲーム(MEGAゲーム)が提供できる端末の強化。
  • デコメールの充実化。
  • amazonから学ぶECの活性化例

以上が各社の主な内容である。
三社を比較してまず共通するのが今後の事業注力、収益向上の中心にコンテンツ強化を挙げていることだ。通話品質の向上によるブランドイメージの向上や、通話時間増加による収益拡大よりも、コンテンツの提供によって得る通信費やダウンロード課金モデルに目を向けている。要するに、頭打ちな通話による売り上げ単価の向上に注力するよりも、本来携帯電話では付加的要素であった通信を利用したコンテンツ収益のほうが今後は伸びしろが大きいということだろう。この背景には携帯電話端末の性能向上に加え、大容量通信を行うインフラが整備され始めたのが大きい。
すでに各社とも3Gへの以降はスムーズに行われており、それに伴いユーザーの携帯コンテンツへの需要や意識も徐々に伸び始めている。ゲームや音楽が携帯選びの重要な要素認識されつつある現状からも、通話以外の付加的価値が=シェア獲得に大きく関わってくるような時代になってくるのだろう。その意味で「音楽といえばau」といったイメージを消費者に植え付けることに成功したKDDIは一歩先勝といったところか。
私は今【モバイルを使い倒せ】という会社の指令の元、WILLCOMを含む携帯4キャリアの最新機種を利用させてもらっているが、すべての機能・コンテンツにおいてauDocomoより少しずつ充実している、あるいは一歩先んじているように感じる。例えばDocomoのプレゼンにあった大容量チャンネルの深夜配信などの試みは、auですでに行われていることだ。また各社携帯公式キャリアとしての導入に慎重だったコミュニティサイトにしても、「EZ GERR」を11月に始めるなど新しい試みもどんどん始めるようになった(Softbankに関しては最新機種に「Yahoo! mocoa」など新しいコミュニティ機能を付加している、ただしあくまでサービス機能の一環でそこから課金へ結びつける目的ではないようだ)。その他にもDocomoは音楽機能やGPSなどでに少しずつ差をつけられ、Softbankに限っては大きく水を開けられている状態だ。かろうじてゲームや電子マネー機能の充実度でDocomoが勝っていると思われる。(ちなみに現Softbankユーザーである筆者はJ-PHON時代に写メールなど先進的な試みを次々と導入していく姿に惹かれて選び、そのまま引きずっているだけあって非常に歯がゆい思いがある)
MNP競争でまずは「一人勝ち」を収めたことが物語っているように、料金や通話品質よりもコンテンツサービスの充実さが携帯選びの大きなウエイトを占めるようになってきたことは間違いない。これは逆に言えば携帯各社は料金や通話品質で勝負する気がないとも感じられる。結局「予想外割り」を打ち出したSoftbankのプランが、実はそこまでのインパクトがないことを孫正義氏の思惑とは「予想外」に消費者は冷静に見抜いていた。もし孫氏が本気で価格攻勢に出ていればまた違う展開になっていたかもしれないが、おそらくは各社ともこれから価格で競い合うことは予想しがたい。(個人的には各社とも違った路線で勝負していって欲しい気はするのだが・・・。例えば「価格で選ぶならSoftbank」「付加機能で選れぶならau」「間を取るならDocomo」のようにそれぞれ値段とサービスに特色を出してユーザーの選択肢が広げられるような動きになればおもしろいかもしれない。(これによって今後さらに「情報格差」が生じてしまう危険性もあるが)
今回の携帯3キャリアの発表をまとめると、ひとつはっきりしていることは今後携帯電話はますますPCに近い機能を目指してくるというのは間違いないということだ。そして単に機能的に近くなるだけではなく、むしろGPSの活用などPCにできない機能を携帯で実現する方向に向かっている。

モバイルの未来像

携帯3キャリアのプレゼンに先立ち、「モバイルネットワークの未来」というタイトルで孫泰蔵氏が講演を行った。
孫氏はまず携帯電話機の持つ三つの相反効用を説明した。

  1. 利用機会  「いつでも、どこでも」でありながら「そのとき、その場所で」の機会がある。
  2. 利用特性  「携帯性(portability)」を持ちながら「移動性(mobility)」を持つ。
  3. 相手との関係性  「広範性」をもちながら「ピンポイント」である。

未来のモバイルサービスを構築しようとするとき、これらの特性を正しく理解して取り組む必要があるだろう。それぞれの強みを生かし、組み合わせることによってモバイルには無限の可能性が広がる余地を持っている。
そしてその先にはこのような携帯の未来像が見える。

  • かばんの中にあったものの集約

今までかばんの中に入れて持ち歩いていた財布、カードケース、手帳、免許証、家の鍵、カメラ、などありとあらゆる物を携帯電話に集約できる。

  • エンターテイメントすべての携帯

これまでリビングに置いてあり、そこでしか使えなかった物を持ち出せる。例えば、テレビ、リモコン、パソコン、本、ゲーム機、ビデオ録画機、コンポ、CD、DVD、などがリビングに居なくてもどこでも使える。

  • コミュニケーションの物理的制約の超越

これまではface to faceと携帯とではコミュニケーションの濃度に大きな差があったが、これからはその差が縮まってくる。

  • 生活の様々なシーンでのソリューションの提供

旅先で道がわからず困った。今日飲みにいく場所が決まらない。目の前の建物が何であるか知りたい。誰かの居場所を知りたい。暇を潰したい。ありとあらゆる「困った」が起こったとき、携帯を開ければ何でも解決してくれる。まさに「携帯ドラえもん」。


どこまでも想像力を膨らますともはや「携帯さえあれば何でもあり」の世界である。信じられないような世界だが、ここ10年の携帯の進化を見ていれば誰も「ありえない」とは言えないだろう。そして携帯業界は確実にこの方向に向かっている。
もちろん、このような世界が近い将来実現したとして様々な問題や弊害が出てくることは想像に容易い。携帯ひとつに生活の中のあらゆる機能を詰め込むということは、携帯を忘れてしまったり失くしてしまったときのダメージも大きいだろう。しかし、そういった科学技術の進化の恩恵に、我々はすでにこの瞬間もどっぷり漬かってしまっている。パソコン、携帯、インターネット、これらをすべて取り上げたら今の社会はどうなるだろうか?結局人は「便利だ」「楽だ」「面白い」と思う物があればそこへ飛びついてしまう。その是非をここで論じるつもりはない。ひとつ言えるのは、携帯はこれから「電話機」としての機能とはどんどんかけ離れ、「携帯ネットワークコンピュータ」に進化していくのは確実だということだ。かのユビキタス構想の提唱者であるマーク・ワイザーもまさか携帯電話が最もユビキタス端末に近い存在にまで発展するとは思っていなかっただろう。
モバイルの進化はまだまだ発展途上だ。それは同時に携帯電話×インターネットのサービスの可能性の余地はまだまだ無限に広がっていることを意味する。Mobile2.0のインパクトがweb2.0を超える日はそう遠くないのかもしれない。