ワンセグの新たな試み

ビジネスの動向や新しい技術に関するニュース番組、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」(WBS)で昨夜ワンセグの新しい試みが紹介されていた。
弱電波を利用したワンセグによるコンテンツ配信システム「スポットキャスト」を富士通が世界に先駆けて開発したというものだった。「スポットキャスト」は半径3メートル程の範囲に限定して動画などのワンセグ放送を配信する仕組みで、非常に微弱な電波を利用するため、設置に伴う免許なども不要だという。
これまでの広範囲なワンセグ放送とは違い、ターゲットを「そのとき、その場所にいる」人々に限定できるため、発信者とユーザー、双方にピンポイントな情報をやりとりできるメリットがある。
番組ではレストランなどテーブル単位で置かれた「スポットキャスト」を利用して、メニューの動画が配信される試みがなされていた。
これはレストラン以外の様々な商品にも応用できるだろう。従来だと店頭の目玉商品の棚に設置されているような小型液晶を使ったCMなどがこれに変わる可能性がある。もし「スポットキャスト」が多チャンネル同時配信のシステムがあれば(おそらくはあるだろうが)これまで目玉商品に限られていた動画情報が、それ以外の多くの商品にも広がる可能性がある。
しかしながらひとつ注意しなければいけないのがワンセグ放送の受信は消費者に少々の能動性が求められるということだ。流しっぱなしの商品棚の映像とは違い、ある商品に関する情報が知りたいと思ったら、消費者は携帯を開いて指定されたチャンネルにあわせる必要がある。この場合「店頭CMに釣られて買ってしまった」ということにはなりにくい。消費者が商品に対して一定の興味を持った上で、さらに詳しい情報を求める場合にのみ「スポットキャスト」効果は発揮される。
個人的には「買いたい」と思った商品についてよりたくさんの情報を知りたいタイプなのでこの仕組みは歓迎である。また、ワンセグにはアナログテレビ放送のような一方向のコミュニケーションではなく双方向性があるので、その点でまだまだ可能性も広がっているだろう。

話は少し変わるが、WBSの番組を見ていてふと思ったのが、ICタグRFID技術を応用したユビキタスコンピューティングの実験だ。東京大学坂村健教授を中心に様々な実証実験が行われているTRONプロジェクトが代表例だろうか。これは商品や場所に埋め込まれたICタグRFID技術を用いて人が持ち歩いてる情報端末と通信を行い、情報端末はICタグから送られてきた情報を参照しながら別のネットワークから必要な情報を入手するというものだ。言うなれば空間にURLが埋め込まれているという感覚だろうか。
この仕組みは人間が現実空間で「ある場所」「ある商品」に物理的に近づいたときに、その人にとって必要な情報(動画、画像、テキストデータ)を配信する仕組みという点で新しいワンセグの試みとも大きな共通点がある。どちらも「ユビキタス」という言葉が連想されるシステムだが、ワンセグ放送が受信できる携帯電話が2010年までに3000万台を超えることを考えると、「スポットキャスト」のようなシステムのほうが、一般向けにはユビキタスコンピューティング普及の足がかりにはなるかもしれない。