"ロハス(LOHAS)”は地球を救う?

環境を考えた新しいライフスタイルの価値観

最近、ロハスLOHAS)」という単語を耳にする機会が多くなってきた。LOHAS(Lifestyles Of Health And Sustainability)とは、健康と持続可能性の(〜を重視する)ライフスタイルの略で、健康や環境問題に関心の高い人々のライフスタイルとされる。
元々アメリカのマーケティング用語として輸入されたロハスという単語は、企業が高価な健康食品などを売りつけるための材料として使っているのではないかといった批判もある。また日本においては三井物産が一時期商標管理を行おうとしたことで単なる自作自演の金儲けの道具だったのではないかといった声も出た*1。しかしながらロハス本来のコンセプトや考え方は、これまでの大量生産大量消費、使い捨て型のライフスタイルを見直し、これからの地球環境に配慮した生き方を示す一つの指標として大きな価値があると私は考える。
実体のない価値観などの概念をたくさんの人々の間で共有しようというとき、一言でイメージがつかむには共通の名称が必要となる。例えば「セレブ」といった言葉もその一つだろう。今多くの日本人は「セレブ」という言葉に共通のイメージを浮かべることができ、中にはそれに憧れを抱く人も少なからずいるだろう。「セレブな生き方」というのは、ひとつの価値観として人々の間に概念化されている。
前置きが長くなったが、要するに「ロハス」という言葉の概念を正しく広めることができれば、それはひとつの価値観として(選択するかしないかは自由として)人々に定着する可能性がある。仮にその言葉が企業のマーケティングの材料にされたとしても、虚偽がなされていない限り我々も多少は目をつぶることも必要かもしれない。少なくとも「セレブ」をあおるマーケティングよりは地球環境のためになるのだから。

ロハスLOHAS)な生き方とは何か?

LOHASの生みの親である社会学者のポール・レイ氏はロハス志向な人間の傾向として以下のような指標を挙げている。

  • 持続可能な地球環境や経済システムの実現を願い、そのために行動する。
  • 金銭的、物理的な成功を志向せず、社会的成功を最優先にしない。
  • 人間関係を大切にし、自己実現に力を入れる。
  • なるべく薬に頼らず、健康的な食生活や代替医療による予防医学に関心がある。

また、2005年に株式会社イースクエアによって行われた日米合同のロハス消費者調査によると、ロハスに分類される人間の属性として、

  • 比較的高学歴、そこそこの収入はあるが出世志向は弱い。
  • マイペースで自分の好きな仕事をこなして行きたいと考えるが、それ以外の通常の業務もそつなくこなす。
  • 社会活動、NPOに関心があり、環境問題のセミナーなどに参加する。
  • 消費傾向においては、流行や話題に流されず、高級感や値段よりも、知性と上品さが重要になる。
  • 品質、製造方法、伝統、文化などの薀蓄(うんちく)を好む。
  • 海外旅行に定期的に出かける。
  • 将来的には大学院に通いたいなど知的好奇心が旺盛。

等々の結果が出た。

ロハスの浸透が生むもの


地球の環境問題は、もはや先進国の全人口がロハス人間なるくらいでないと修復できないレベルに達している。仮にロハスなライフスタイルの価値観が広く消費者に浸透すれば、企業もそういった人に好まれる商品を作らざるを得ない。商品が売れなくなるからだ。GMトヨタプリウスに負けない燃費性能を意識した車作りに迫られているように、今後さまざまな企業が環境に配慮した商品作りに方向転換を迫られることになるだろう。
しばしば「コスト削減と利益を追求する企業に、エコは馴染まない」と言われているが、それは前時代的なライフスタイルと価値観が浸透した社会=大量消費社会が前提にあってのことであり、ロハス層が増大すると予想されるこれからの時代では、環境対策が結果的には企業の利益とも直結することになるだろう。
現に左図のグラフ*2を見てもわかるように、日本のロハス層は2006年時点においても人口の4分の1を占めておりマーケティングターゲットとして十分過ぎる母数を有している。これは極端な話、同じような機能とデザインの製品があったら、少しくらいお金が高くても4分の1以上は環境に配慮した製品を選ぶと人間がいるということを示している。
「eco」をいくら実践すると言っても、人間が活動するためには消費が必要であり、ほとんどの人間は自分の生活時間を割いて木を植えに行くことはできない。その点ロハスという価値観は日常の中のライフスタイルを、これまでとはほんの少しずつ変えていこうと意識することから始まる。ロハスが今後人々の間にさらに定着し、企業もそれに従った活動を始めたとき、持続可能な大きな「eco」が生まれるのではないだろうか。

ロハスの課題

先進国に住み、一定の教養があり、なおかつ生活に困窮しない程度の収入がないと、ロハス人間にはなりにくいと思われる。「衣食足りて礼節を知る」ではないが、明日の生活に困る人間は物を買うとき一円でも安いほうを選択するだろう。これは当然の事だ。さらに世界中には今もなお過去の日本のように大量消費型社会の物質至上主義が中心的価値観として根付いている国々が多数存在する。経済発展がめざましい中国や、東南アジアなどの新興国がそうである。そういった意味で、ロハス層が世界中に広がるにはまだまだ相当な時間が必要と思われる。ただ、一方で日本人は最もロハスに馴染みやすい国と言ってもよい。まずは日本が世界に先駆けて「ロハス」という新しいライフスタイルの価値観を世界に発信していく必要がある。
また、一度商標管理問題で傷ついたイメージの回復も課題である。ロハスに変わるまったく同じ概念を示す単語を作るのもひとつの手かもしれないが、定着、普及を目指すとなるとそちらのほうが難しくなるだろう。

最後に、相原正道著の「ロハスマーケティングのススメ」を紹介したい。この本にはロハスの概要からその実態と社会的意味、マーケティングに用いるときの効果的な方法と盲点などが豊富な実例を交えながら書かれている。ロハスを知りたい、またはロハスマーケティングに興味がある方は一度読んでみてはいかがだろうか?

*1:2006年5月に「ロハス」の商標は自由化

*2:株式会社イースクエア「第二回LOHAS消費者動向調査2006」より引用