モバイルP2Pが実現する未来

モバイルP2Pの概要

PCの世界ではP2Pという技術は割とポピュラーであり、名前は知らない人も、知らず知らずの間に使っていることは多いと思われる。例えば『Yahoo!Messenger』や、『MSN Messenger』といったツールはHybrid-P2P型とよばれる技術を使っているし、世間をにぎわせた『Winny』をはじめとするファイル共有ソフトにはバケツリレー方式でデータを転送するTree状P2P型の技術が使われている。また、最近では『Skype』などのIP電話P2Pである。
この技術の対義語として使われるのが「クライアント・サーバー・モデル」である。簡単に言えばユーザー(クライアント)がページを読む要求を送ると、サーバーがデータを応答するモデルで、我々が通常ネットでHPなどを見るときはほぼこの「クライアント・サーバーモデル」で通信している。
携帯電話のネット通信も基本的にはこの「クライアント・サーバー・モデル」が主流だが、このモデルには欠点もある。それは通信の非同期性だ。送信→処理→応答といった通信の一連の流れがあるため、どうしてもそこでタイムラグが発生してしまう。そのため通信のリアルタイム性が要求されるサービス、例えばネット対戦ゲームなどではユーザーがストレスを感じてしまうことも多い。

モバイルP2Pミドルウェア「Spear」

携帯電話の世界でもようやくP2Pの技術が導入されはじめようとしている。ベンチャー企業の“ヨシダカマガサコ”(株式会社吉田鎌ヶ迫)はP2P通信ミドルウェア「Spear」(スピア)を開発している。現在はauの携帯電話端末で採用されているアプリケーション実行環境“BREW”(ブリュー)に対応しており、TCP/IPのソケット通信を用いた端末同士のP2P接続のためのインフラを提供を始めている。
「@IT」の特集ページでは通信の様子を撮影したデモンストレーション映像が置かれている。実際に見てもらえればわかるが、テキスト文字が送信ボタンを押した瞬間に相手側に表示されたり、複数の携帯電話がまるで石を投げた水面のように即座に反応し合っている様子が映っている。いづれも従来の携帯電話ではなし得なかった動作である。

リアルタイム通信は携帯の使い方を大きく変える

モバイルP2Pによってリアルタイムな伝送が可能になれば、これまでの我々の携帯の使い方とは異なった、まったく新しい楽しみ方や利便性が次々に生まれてくる可能性がある。特に対戦ゲームといったエンターテイメントの分野はもちろん、生活の中でもGPSと連動してお互いの位置をリアルタイムで確認し合えれば、もう待ち合わせ場所に頭を悩ますこともなくなるかもしれない。また、コミュニケーションのあり方も大きく変える可能性がある。最近ではTwitterという一言系SNSが流行っているが、あのようなサービスを携帯でリアルタイムに実現できればさらに面白い。
もっというのならば、P2Pの技術はむしろPCよりモバイルのほうが利用価値と広がりが見込めるのではないだろうか?
P2P機能を搭載したモバイルが普及したとき、PCでも考えられなかった便利で面白い使い道が次々と生まれてくる可能性は非常に高い。

課題

しかしながらP2Pモバイルの普及の道のりには課題もある。まずは対応機種の不足。ミドルウェアは実現してもP2P通信を実行環境である“BREW”が搭載された端末が普及しなければ、なかなか広まらない。次に法的な制限である、Spearを開発した林雄一郎氏は「Spear Multiでは理論的には何台でも接続できますが、携帯電話端末には単位時間当たりの通信量や通信回数の制限がかかっていますので、現実的に接続できるのは10台前後です。」と答えている。さらには端末のバッテリーの問題もある。常時P2Pソフトを起動し、なおかつ頻繁に通信を行い続けるとなれば、当然バッテリーの消耗も激しくなるだろう。バッテリーの性能は年々上がっていると思われるが、こういった新しい使い方に耐えられるかと言えばおそらく現段階では無理なのではないか。
とはいえ、このP2Pの技術が「Mobile2.0」の重要な要素となっていくことは間違いないだろう。今後の発展に期待したいところである。