シリーズ【第一弾】『WEB3.0のキーファクター』〜リアルタイム共有体験

日々、様々な媒体を通じてネット社会で巻き起こる出来事をウォッチし、考察していると、時々「これは次世代のムーブメントの重要なファクターとなるのでは?」と感じることがある。それはひとつの「これはすごい!」と感じるサービスを使う瞬間というわけではなく、ひとつひとつのサービスやアイディアを吸収し、蓄積された中から拾い出されるものだ。
今後はこうして拾い出された考えを、備忘録の意味も含め『WEB3.0のキーファクター』というシリーズでまとめていこうと思う。そして第一弾として今回は「リアルタイム共有体験」について論じていく。

擬似共有体験を実現した「ニコニコ動画

以前投稿したニコニコ動画についてのエントリーでは、このサービスの面白さの秘密のひとつに、家族や友人同士でテレビを見て盛り上がるのと似た、オンライン動画を通じた擬似共有体験であると述べた。「今、他の誰かと同じものを見ている」という共有感覚は、一人のそれ以上の大きな興奮や感動を生む。
しかしニコニコ動画で編集された映像は、実際には同時に見ているわけでも書き込みんでるわけでもない。あくまで時間差のある擬似共有感覚である。*1

スポーツ観戦にみる共有感覚の重要性

現実社会でもっとも共有感覚を実感できるのはおそらくスポーツ観戦だ。ちなみにスポーツにまったく興味がない人種は、この共有感覚が理解できない故に、時にこのようなセリフを吐く。
「ビデオに録って後で見ればいいじゃない?」
「わざわざスタジアムに行くより家で見たほうが解説の良い映像見れるのに・・・。」
これはスポーツ観戦の醍醐味というものを微塵も感じられない人の典型的な発言だ。こういった価値観の人々にとって、チケットなしで試合会場周辺に詰め掛ける連中はおそらく宇宙人よりも理解しがたい集団に見えるのだろう。
言うまでもなく、一見非スポーツ観戦層にとって非合理的ともとれる彼らの行動は、「周りといっしょに盛り上がる」あるいは「今この瞬間の出来事を見逃さない」ためにある。彼らが求めているのは映像芸術ではなく、まぎれもない共有体験である。*2つまり、スポーツ観戦がもっとも人々を魅了するのは、その実、自分とそれ以外の他人との間で起こっている、リアルタイムな共有感覚なのだ。その証拠にミーハーを巻き込んであれだけ盛り上がった日韓W杯の高画質映像を2007年現在独りで見返したとしても、当時のような興奮を再現する事は絶対に不可能である。
これは何もスポーツ観戦に限った事ではなく、演劇や映画、コンサート、ライブなどにも共通する感覚と言える。

2ちゃんねるの実況板を実況するツール「Balloo!」

2ちゃんねるには放送されてるTV番組について語り合う(実況し合う)ための「実況ch」というカテゴリーが設置されている。これらの板において特に盛り上がるのはサッカーの日本代表などのスポーツ中継だ。*3大きな試合中継時ともなると、回線がパンクするほどの膨大なトラフィックをみせる。
この実況板に書き込みをする人々の多くは、実際に放送を見ながらの操作である。(テレビがみれずに実況だけを見て楽しむ人もいるただし、1)パソコンの画面とテレビ画面を交互に見るのは面倒。 2)定期的に更新するのが面倒。 と言ったような問題点があった。
これらを半分解決したのが実況板を実況するツール「Ballo!」である。「Balloo!」を起動するとタスクトレイに常駐し、2ちゃんねる掲示板の実況スレ(実況スレ以外も可)を定期的にチェックし、新着レスを画面の右下隅にポップアップ表示してくれるフリーソフトである。最近ではテレビボードのついたPCは珍しくないので、PC一台でテレビと2ちゃんねる実況の両方を楽しむ事ができる。しかし書き込みには対応していない。(だから半分解決)しかしながら、この「Balloo!」には、リアルタイム共有感覚を刺激する要素が大いに盛り込まれているように思える。

リアルタイム共有体験をサポートするWEBサービス

インターネットは物理的空間差によって生じる時間制約を取り払ったと言われるが、IMを使ったチャット等を除き、厳密にリアルタイム性を実現したWEBサービスというのは実は数少ない。これは我々がWEBから情報を取り出すとき、ほとんどが「送信」→「処理」→「返信」というサーバークライアントモデルの手順に従ったやり取りを踏んでいることもひとつの原因である。「Ballo!」のように定期的な自動更新があれば限りなくリアルタイム通信に近づけることが可能だが、これも厳密には“同時”とは言えないし、限界がある。
ただ、これはシステムの課題によってすべて解決される問題ではなく、重要なのはいかにして人々のリアルタイムな共有感覚をWEBでサポートする仕組みを作れるか?にかかってくるだろう。例えば、「ニコニコ動画」のように厳密にはリアルタイムではないにしろ、擬似的に人々の共有感覚を喚起できれば十分に面白いサービスとなる。
ところで、今巷で流行っている「Twitter」も、このリアルタイム共有体験をサポートするWEBサービスであると私は考えている。そこには毎日寝る前に一括して確認する日記やブログにはない、「今、周りは何をしているのか?」を共有するおもしろさが存在する。*4
そして見逃してはならないのが、このような特性をもったサービスが携帯電話との親和性が高いということだが、これについてはまた次回のシリーズに持ち越させていただく。

*1:もちろん時間差投稿によって生まれるおもしろさもニコニコ動画の特徴のひとつである。例えば「字幕職人」と呼ばれる者が行う字幕投稿を駆使した演出は時間差投稿がなせる技である。

*2:パブリックビューイングやスポーツバーに集まる人々などはまさにそれ自体が目的となっている。

*3:スポーツ中継以外にも2ちゃん受けしそうな事件の特番なども大いに盛り上がりを見せる。

*4:リアルタイム共有体験を最も広いスケールで享受できるツールが「Twitter Vision」である。これについてはまた後日詳細をUPしたい。